10月11日  カジュラホ目指して


今日は移動日。今回の旅のハイライトの一つ、カーマスートラ像(有名なエロエロ彫刻です)を見にカジュラホへ向かう。

有名な観光地ではあるが、小さな村なので鉄道は通っていない。行ける所まで列車で行って、そこから5時間ほどバスに乗る。

これがカーマスートラ像。こんなしんどい体制でホントにできるのか?

列車は朝8時発。これを逃すとバスへの乗り継ぎが大変らしい。駅につくとまたもや『パンダが街にやって来た』状態。もうええかげんに慣れたけど。

どの駅でも、ホームには屋台がたくさん。プーリという、薄っぺらい揚げパンのようなものとカレーで朝ゴハン。

カレーを入れてくれる器は、葉っぱを器の形に型押ししたもの。屋台の食べ物はほとんどコレに入って出てくる。

へヴィーな朝ゴハンを食べていると、誰かが声をかけてきた。振り向くと、アーグラー初日に引っ張りまわしたタクシー運ちゃん、サドではないか。

あら〜おはよ〜。彼はおもむろに「忘れ物をしただろ?」と言って、てんちょのサングラスのレンズ(片方)を取り出した。

おお!昨日の朝、レンズを失くした事に気付き困っていたのだ!まさかタクシーの中で落してたなんて。

「一昨日話していたとき、11日に8時の列車に乗るって言ってたから」彼は7時から駅で私達を探してくれていたらしい。

たった一日乗せただけの私達に、そこまでしてくれるなんて・・・(しかも全然おいしい思いさせてあげなかったのに)。

心ばかりのお礼を渡そうと財布を取り出す間もなく、彼はあっさりと行ってしまった。どこまでも紳士的な人だった。ありがとう、サド。

彼といい銀行の人達といい、自分が恥ずかしくなるほど親切な人で真っ直ぐな人達だった。インドの人は根はみんな親切で良い人なんだと思う。

ただ多くの人には、観光客相手に少々アコギな手を使わないと食べていけない現実があるのだ。

これについては、後に出会うインド人数人が同じ事を言っていた。

葉っぱの器。これは中身はコロッケ?

良い思い出を抱いて列車に乗りこむ。今度は窓側だぜ、イェ〜イ!ガラスはやっぱり黄色いけど・・・。

走り出した外の景色は、すぐに田舎のものに変わる。日本のように山また山ではなく、どこまでも平地が広がっている。

さとうきびや麦の畑が続いたかと思うと砂や岩だらけの荒地、雑草茂る土地に沼のような所も・・・。

民家もちらほら見える。窓の色のせいでセピア色に見えるそれらの景色を眺めていると、現実感が失われてくる。

ああ、飛行機でわずか10時間の距離にこんな所があるなんて・・・。延々と広がる何もない大地を見ていると、地球の上に居るという実感が込み上げる。

言葉も無く、景色に見とれる二人。と、思ったら隣の友人Sは爆睡中だった。

道は続く・・・。

4時間ほどでジャンシーに到着。ここからはバスだ。駅の外には例に漏れずリクシャの客引きがわんさか。

でもなんか気合が足りない。それもそのはず、旅行客の大半はここには滞在せず真っ直ぐカジュラホへ向かうのだ。

それを分っている彼等は、何も言わなくても「カジュラホ行きのバスならあっちや。」と口々に教えてくれた。

こういう場面ではだまされる事もまずほとんどない。

日本なら廃車でしょ・・・というバスの車内は半分はアメリカ人ツーリスト。かなり混んでいる。席はどうやら指定らしい。

私達は指定席のチケットを持っていなかったが、助手席にあたる場所にある3人がけのイスに座らせてもらった。「この場所っておいしいや〜ん。」

インドの公共の場では、国籍問わず女性は優遇されているのだ。

バスが走り出して、ジャンシーの街がチラリと見える。思ったより都会的なところらしい。観光スポットにありがちな喧騒も無く、のどかそうだ。

「ここで1泊くらいしたかったかも。」そんな思いを残してバスは走る。

街を出ると、列車の窓から見えたような景色がまた広がる。何もない一本道を延々と行くと、時々突然村や町が出現する。

その小さな集落を抜けると、また荒野の一本道が続くといった具合。

バスはやはりかなりのスピードで、凸凹激しい道を突っ走る。お尻が浮いたかと思うと、急カーブで振り回されるドライブ。

「ジェットコースターよりおもしれ〜。」きっとカロリーも相当数消費しているだろう。シメシメ。

驚いたのは、そんな何も無い中の道を歩いている人が結構いることだ。

集落までの距離は車でもかなりあるような地点でも、牛やヤギを連れた人を見かける。移動手段はひたすら歩くだけ、という人も多いのだろう。

聖なるガンジスを目指しているらしきサドゥー(老行者)の姿もあった。

バスの運ちゃんはカセットテープをかけはじめた。テープデッキがあるという事は、後で思えばかなりデラックスなバスだったのだろう。

金属的な楽器と太鼓の音に、甲高い女性ボーカルが重なる。ちょっと鼻にかかったキンキンする声は、昭和初期の歌謡曲を思わせた。

ほとんどが女性ボーカル物だったが、たまにデュエット曲も。男はヒデキばりの叫び声で女性とからむ。

「あ〜歌いたい。」ついそんな気を起こさせるノリの良い曲ばかり。ヒンディー語だから歌えないのが残念だ。

せめてリズムを取ろうとするのだが、インド独自のリズムにノるのはまた難しい。ううむ。

声だけ美空ひばり&西条秀樹のデュエットでインド歌謡をを聞きながら、闇雲にリズムを取る日本人二人を乗せたバスは、

長〜い道のりを経てカジュラホのバス・スタンドに到着。とにかく事故らなくてよかった。

      
公衆トイレ。ドラム缶の再利用品と思われる         道路標識はこんな感じで石に書いてある

小さい村とはいえ、観光名所である。ホテルの勧誘合戦がすさまじい。ビックリしたのは、ココの人間はすぐ人の腕をつかんで引っ張ったりすることだ。

インドでは男性が女性に触れるのは無礼なことなので、強引な客引きでも簡単に触れてくるような人は今までいなかった。

私達はバスの車内で声を掛けてきた青年と、彼の宿を見に行く約束をしていたのでそこへ直行。

いきなり道をはずれて空き地を突っ切って行った先にあったホテルは、1部屋で300Rsと格安な代わりに『汚ぁぁ〜・・・』

しかし予想外の出来事でお金を浪費した私達は節約気分であったし、何より揺れの激しいバスに4,5時間乗っていた疲れがあった。おまけに時間はもう午後4時になろうとしている。

こういう、インド的なホテルに泊まるのもエエやんな。」疲れは人の判断力を低下させる。後悔先に立たずとはこの事だった。

    ホテルの部屋。不潔さが写真では分らないのが残念。

観光に行くのは時間的にもムリなので、屋上でボ〜ッとすることに。居住地区にあるので静かで、だだっ広い土地に点々と民家が建っている情景が夕暮れの中に浮かぶ。

他の都市より空気もキレイだ。空き地で遊ぶ子供達に、テラスでくつろぐ大人達。夕食を作る煙も見える。

昔の日本にも、こういう情景があったのだろうか。生活があり、家族があり、時間がゆっくりと流れている。

やがて子供達が母親に呼ばれて一人、また一人と姿を消す時間になると、目の前の木からは鳥も一斉に飛び立った。

カラスも家に帰るのか・・・ん?何かカラスのようでカラスじゃない?

「コウモリや〜〜〜!!」

良く見ればカラス大のコウモリの群れが、キィキィ言いながら飛んでいく。インドってば本当に天然の動物園である。

そこいら中にウシ、ブタ、リス、サル、所によってはイノシシなんかもうろうろしてるし、鳥もハッとするほど色鮮やかなのがらわらわといる。

朝は鳥の声と窓にぶつかる音で、目が覚めるくらいである。しかしあんな巨大なコウモリが、平気で飛んででいいのか?

血ぃ吸われたら大変やな。」「ドラキュラと間違ってへん?」

屋上からの眺め

そんな事を言ってる間に日はとっぷりと暮れており、ホテル(というよりペンション)のお母さんが息を切らせて階段を上がってきた。

「ゴハンが出来ましたよ。」

彼女もまた英語が出来ない。女性は外に出る機会がないので、英語を話せない人が多いのだ。ヒンディーと日本語でコミュニケーションしながら階下に行く。

食堂は庭だった。あらエエや〜ん、と一瞬思ったのだが、その思いもまた一瞬で飛んだ。

蚊が多いんである。すぐにじっと座ってるのが辛くなる。

辛抱強く待って料理が出て来たのはイイが「何も見えん・・・。」

テーブルにはライトがなく、庭を囲む塀にポツポツとランプがわずかにぶら下がっているだけである。

インドの闇は深い。まさかこんな所まで来て闇ナベするとは思わなかった。

しかもてんちょは魚を頼んだので、手探りで食べていると時々「痛っ、骨や。」となるんである。

おまけに恐ろしく辛い。まずくはないのだが辛い。辛くしないでって言ったのに・・・。辛さに結構強いてんちょが涙したのだから、友人Sはかわいそうな状態。

しかもご飯の量がめちゃくちゃ多い!皿にてんこ盛りのその量は、1合以上あったと思われる。

なのにここの主人は料理自慢らしく、感想を求めてくる。その口調がまた

ウマイやろ?ウマイよな?気に入らんなんて言うたら・・・分ってんな?」

という感じなのだ。顔は笑っているけど目が笑ってない。怖くて、気弱な私達はがんばって料理を誉めてしまった。

でも食べられないものは食べられない。主人が姿を消したスキにお母さんに「ゴメンやけどもう食べられへん(味的にも量的にも)」と伝える。

すると彼女はうずくまって頭を抱えてしまった!ウチ等を脅迫してるのか、旦那が怖いのか。

困ったので、「後で食べるから部屋に持って行く。」ことに。もちろん部屋でこっそり処分するつもりで。

食べ物は粗末にしたくなかったが、向こうも悪い。とにかくその場から離れたかった。

しかし苦悩は続く。部屋に戻ると・・・電気がつかない。小さな電球は付くのだか、蛍光灯はチカチカしてちゃんと付かない。

もう疲れて、悪態をつくのもいやだった。罵って、怒りの気分を倍化させるのもいやだった。

仕方なくチカチカする部屋で「イッツマ〜イでぃすこ〜♪」と盛り上がってみようとするものの、空しい試みだった。

「お風呂に入る?」バスルームの隅には蚊の大群が我が物顔。おまけに流れない水洗トイレとシャワーはほとんど離れていなくて、何の仕切りもない。

トイレが壊れているのもお金払ってから言うんだもんなぁ。水をくんで便器に投入してくれって言われても、そんなもんで流れるかっ!

「今晩はお風呂止めとくわ・・・。」「私も・・・。」

バスルーム。トイレの悪臭の為、開かずの間となっていた。

豆電球一つの暗い部屋でガイドブックを広げ、どちらから言うともなく、明日の朝一番で移動するホテルを物色しはじめる。

お金を払ったお客様なのだから、堂々と文句を言えば良かったのかもしれない。いや、そうするべきだったのだろう。

朝の出来事で優しい気持ちになっていたのが、アダとなったかもしれない。

夜が明ければここから出られる・・・。」それだけを楽しみにして、眠りについた。

つづく