10月12日  カジュラホの幸福な一日


夜明けと共に、何かが激しく窓にぶつかる音で目が覚めた。『ぎゃ〜っ』という鳴声も・・・どうやら原色の鳥達が騒いでいるらしい。ホントに天然動物園だ。

寝不足気味にも関わらず、この宿を離れられると思うと心が弾む2人。日本から持参したカロリーメイトで朝ゴハンを済ますと、さっさと出発準備を整えた。

「え〜1日早くヴァラナシへ行くことにしたんで、さよなら。」

エゴ大王の宿主は”はっ”と吐き捨てるように笑った後、作り笑いを浮かべながら勝手に人の”地球の歩き方”のクチコミページを開いて、

「ここに是非ウチの宣伝を書いてくれ。列車は夕方やろ?それまでに書いてここへ持って来てくれたらワシが出しておくから。約束やで。」

おお、出す前にちゃんとチェックしようってワケね。

笑顔で約束しながら、「二度と戻ってくるかい!」と硬く心に誓い、清々しい朝の空気の中へ清々しい気分で歩き出した。

昨晩目をつけていたホテルを目指す。と、いっても狭い村のこと。実は目と鼻の先である。

とりあえず部屋を見せてもらう。清潔ではないがそう不潔でもない。トイレの水もちゃんと流れる。おまけに二人で100Rs(約¥260)と来たもんだ!

決〜まり♪

清掃が済むまでの間にチェックイン手続きをする。インドのホテルではインド国内に入った日、その街に着いた日、滞在期間などを事細かに書かされる。

私達が昨晩もこの村に泊まっていた事も、当然バレバレである。

「夕べはどこに泊まったん?」とフロントの男の子。「○×∴ゲストハウス(思い出させるなよ)」

「Oh、そこは僕のお父さんのホテルだよ。」げっ・・・恐ろしきは狭き世界。

「何か問題でもあったのかい!?」真剣に聞いてくる彼にかなりうろたえながら

「か、蚊がいっぱいいて・・・。」と答えるのがやっとだった。これでエゴ主人についた嘘もバ〜レバレ。ま、ええか。

本日のお宿

荷物を置いてすぐ、ホテルのリクシャドライバーの誘いに応じてレネアの滝を見に行く。オートリクシャで1時間ほどの距離だ。

運ちゃんご自慢のリクシャは新しくて揺れもマシで、のどかな風景の中を走ると気分も良くなった。

運ちゃんは『俺の名前は車 団吉や〜』とか言うヘンなヤツで、よくしゃべった。

滝がある国立公園の入り口で入園料を払う。やっぱり外国人はインド人の3倍だ。い〜さい〜さ、そんなこったろうと思ってたい。

しかし、料金所を通らなければ入れない公園内にも路上生活者がいるのはなんで?

ガイド(この人はちゃんとした政府の人)に案内されて着いた所は切り立った岩場。乾季の為、水はほとんど流れてなくて滝という感じはしなかったが、

すばらしい絶景である。なんか地球を見てる〜という実感が沸く。

「雨季にはここが全部滝になります。雨が多い時は、岩が全部水没するんですよ。」

ほぉ〜、その景色は是非とも見てみたい。雨季のインド旅行は最悪だという話やけど。

     
レネアの滝。落ちたら死にます。

お次はカジュラホの名物、エロエロ彫刻で飾られた寺院群の見物へ。

東、西、南と3つの寺院群に分かれていて、ホテルからはちと遠い東と南の寺院群へと連れていってもらう。

南は一番規模が小さく、少ないためなんとなくひっそりとしている。しかし映画”カーマスートラ”の舞台になったのはここらしい。

寺院の近くにはお決まりの物売り達が。一人が怪しげな小さい黒い箱を差し出して「ここ回しながらここ覗いてみ〜。」という。

なんじゃ?と覗くと、無修正の実写版カジュラホ彫刻が。お父さん世代には大変懐かしい代物ではないでしょうか。う〜ん、昭和30年代って感じ。

ふと気付くと、スケベそうなおやじ共がニヤニヤしながら反応を見ている。

でもインターネット世代の女の子にとって、こんなものは別に驚くものではないのだ、悪いけど。

お土産にするにしても冗談がキツ過ぎるのでばいばい。

         愛の教科書

南の次は東である。3つの寺院群の中で、ここだけはジャイナ教の寺院が中心であるそうな。(他はヒンドゥー教)

よってエロ彫刻はなく、基本的に寺院の造りも違う。造形自体はこちらのほうがキレイだと思うなぁ〜。白い石材に生えたカビがなければ、さぞかしキレイなことであろう。

ここではお約束のいんちきガイドに何時の間にかマークされていた。彼は付いて来てあちこちでお賽銭をあげろといい、それを自分で回収してやがった(怒)

取り返したけど。

        
ジャイナ教寺院                      御神体です。

うだるような暑さの中、石に囲まれていると本気で暑い。着ていたサリーは汗でべたべた、崩れてぐちゃぐちゃ。

で、ホテルに戻ることに。いつものジーンズとクルタに着替えてホッと一息。

インド女性はなんであの格好で自由に動けるんだ?しかも汗をあまりかいてなさそう。ずっと住んでいるとそうなるのか・・・?

とりあえず遅めの昼食を取りに、店を探してふらふら歩いていく。見つけたセルフ形式の食堂で、白人観光客に混じってインド風ピラフ(ビリヤニ)を食す。

味は悪くないのだけど、何せ油っぽい。質の悪い油をい〜っぱいサービスしましたぁ〜って感じのゴハンを一皿食べると、

さすがに気分が悪くなってしまった。これは動いて消化すべし。

本当に小さな村で、歩いて余裕で周れてしまう。デリーやアーグラーのようにせわしなくもないし、人間も根性悪ではない。

但しここの男達は一様にスケベぇである。やはり名物が名物だからか。

おまけにココに観光に来る女はみんな好きモノやという大変な勘違いをしているようで、違った意味でうっとおしい。(エセ車団吉も、もちろん例外ではない)

でも、長期滞在したいという思いはここで初めて抱いた。

美しいとウワサの夕暮れの寺院を見るべく、西の寺院群へ。ここが一番規模も大きく、きちんと整備されている。

たった5Rs払って門をくぐると、だだっ広くて誰も居ない空間をゆったり2人占めである。

暮れていく日を見ながら世界遺産の元でくつろぐ、贅沢な一時。何とも言われぬ、不思議な開放感に包まれる。

いつまでも居たい・・・と思いつつも真っ暗になってからではコワイので、その1歩手前でホテルに引き返す。

部屋に入ってスイッチを入れて・・・ん?電気が点かない。

フロントに言うと、この村では毎日夕方4時〜6時まで電気が止まるとの事。あ〜ははは・・・。

よく整備された西の寺院群。

仕方ないので庭のテーブルでコーラを飲みながら、6時まで待つ。するとオーナーだという男性がウチ等のテーブルに来た。

「日本人か?」「ホテルは気に入ったか?」とかお決まりの会話の後、

「私を見た日本人は皆、私をある日本の芸能人にそっくりだと言うが、誰か分かるか?」と言うではないか。

こんなインド顔の芸能人いたっけ?てんちょは芸能オンチやけど・・・。しびれを切らした彼が自ら答えた。「車 団吉だよ。」

・・・あんたもかい。どうやらこのホテルでは何故か団吉は人気者らしい。オナカの中で『似てるかぁ?』と思いつつ「Oh!似てる似てる〜」

とはやし立ててみると、上機嫌になった彼は「君はインドの女優のように美しい」とか言って口説き出した。

もうええっちゅ〜ねん。

その内、友人が日本食のレストランをやってるから行こうと言い出した。

実はお昼を食べてからお腹が痛かったてんちょ達だが、チャイだけでも・・・と言われ、せっかくなんで行くことに。

その友人はなんと日本語ぺらぺらで、レストランの他にアクセサリーと曼荼羅の販売、観光ガイドもやっているというお金持ちだった。

レストランの屋上からライトアップされた寺院を見ながら、日本語で会話ができて何だかとてもイイ気分。

しかも明日の朝食をごちそうになる約束まで頂いた。

すっかりご機嫌で帰路に着くと、外では祭りが。今日はシヴァ神の祭りで、若い女性はお菓子を作って寺院にお祈りに行くのだそう。

インドでは大半が親の決めた相手と結婚するそうで、女の子は良い夫に当たるようにとお願いしに行くのだ。昔の日本みたい。

道行く人に配っていたお菓子をちょっともらって食べつつ(こういう事するからお腹壊す)ホテルに戻り、

2日振りの入浴を済ませて気持ち良くベッドに入る。このホテルは正解だった。

痛いお腹を抱えつつも、良い気分で一日を終えることができて良かったとうなずき合う私達。

祭りの夜は更けて行く・・・。

つづく